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私の知人のSさんは、ある梱包会社の社長さんでした。 そのころ、職場の安全教育に力を入れていました。 「年頭にあたり、皆さんとともに『安全の誓い』を立てましょう。その誓いとは、この一年、われわれの職場から絶対に事故、災害を出さぬということでなければなりません。 そのためには、新年、気分を一新して、おたがいに『安全の一善事』を発願して実行しましょう。」 また、Sさんは、こういいます。 安全管理の基本理念は、安全を生産に優先させることだ。 それは、しかし、生産活動を犠牲にすることではない。むしろ生産の向上につながり、品質改良のうえにも好ましい影響をもたらすものである。安全と生産と品質は一体不可分の関係にある、と。 さて、また、四国にある銅山の坑道の入口に、お稲荷さんがおまつりしてあります。鉱夫たちが、毎朝、そこにあたかも神がおわすがごとく礼拝して、入坑していく姿に、Sさんは心を打たれたというのです。 「今日一日、自分の力のおよぶ限り、安全な作業をいたしますが、人智のおよばぬ危険に出会ったときには、どうかお守り下さい」という敬虔な祈りの礼拝ではなかったかと感得したのでした。 このように、自分をつねにふりかえる。自分を客観視して、自分で自分の安全を躾る。ここに、ひとりひとりの安全の道力があらわれてくる。 Sさんは、ながいあいだ、禅に親しんできた人です。『安全百朝集』と題する本を書いて、序文を求められましたので、言われるままにしるしたことでした。
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