「私は仏様のおかげとしか思えないんです」 第110号
大乘寺 山主 東 隆眞

 平成23年3月11日14時46分、東日本大震災が発生、15日朝6時ごろまで、その影響は継続しました。
 私は、福島第一原発吉田昌朗所長さんの調書の要旨を、新聞、テレビ、週刊誌などを出来るかぎり蒐集し、読みました。
 いわゆる吉田調書によると、所長さんは、原発がメルトダウンし、東日本壊滅を覚悟したということです。13日未明から早朝にかけて炉心損傷が始まり、「もうこのときは死ぬと思いました」。もちろん、東京電力の現場技術者、福島第一原発の職員たち、自衛隊員たちも、いのちをかけて対応したのである。
しかし、官邸、東京電力本店などの対応は、ほとんど現場にとどいていなかったらしい。
 詳細は、省略しますが、14日11時1分、3号機で水素が爆発、作業員たちは免震重要棟に退避しました。
 この爆発は「結構短かった。ゴーかけて、よし、じゃあという段取りにかかったくらいで爆発した。
 現場から上がってきたのは、四十何人、行方不明という話。爆発直後、最初の報告だが、私、その時、死のうと思った。それが本当で四十何人亡くなっているんだとすると、そこで腹切ろうと思っていた。
 確認したら、一人も死んでいない。私は仏様のおかげとしか思えない」(故吉田所長さんのおはなし。「北陸中日新聞」9月12日朝刊)。
 しかし、この「私は仏様のおかげとしか思えない」という吉田所長さんのおことばは、その後、ほとんど全くといっていいくらいとりあげられたことがありません。
 吉田さんの発言は、現代の自然科学の知性から外れた単なる個人的な思い付き、あるいは偶然にすぎないのでしょうか。
 うけとり方は、ひと、さまざまでしょうが、私は、ここに、吉田さんの、人としてのうそ、いつわりのないまごころを感じ取ったことでした。
 あらためて吉田昌朗さんの御冥福をお祈りします。


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