天国、浄土 117号
大乘寺山主 東 鱆チ

 ある新聞の読者欄に、「惜しまれて天国に旅立った人」ということばがあった。この文章を書いた人、そして、この「天国に旅立った人」は、おそらくクリスチャンであろう。試みに『広辞苑』を引くと、「天国」は「神、天使などがいて清浄なものとされる天上の理想の世界。キリスト教では信者の霊魂が永久の祝福を受ける場所」とある。
 仏教では、天国ということばはないわけではないが「神の概念は仏教の救済論には本来不必要である」バラモン教やヒンズー教の神々が仏教にとり入れられたが、それらは「比較的低級な存在」だとある。仏教独自の「天」はいろいろ説かれるが、キリスト教のような位置づけはない。
 仏教では、死後の世界、霊魂に関連して浄土を説く。と言っても、日本仏教の場合、極楽浄土、密厳浄土、霊山浄土など諸説があって、ひととおりではない。が、キリスト教の「天国」に対比されるのは「浄土」だ。浄土とは、ひとくちにいえば、「浄福な永遠の世界」のこと。(『仏教辞典』岩波)が、「天国」とは、中味が違う。
 仏教徒は、仏教の説く「天」や「浄土」について、くわしく学ぶことが必要だ。うっかり「天国」などと言ってはならないだろう。

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