「俺がやったんだ」「ごめんなさい」 137号
 私は、小学生のころ、ずいぶんあばれん坊であったが、下級生や女子生徒に手を出したことはない。
上級生に、やはりあばれん坊がいた。私と、一、二をあらそっていた。
 この上級生A君のことで、数十年後のいまも記憶にのこっているのは、彼は決して逃げないのである。ひとりのときでも、いつでも、堂々と正面から向かっていった。
 彼は、自分がしたわけではないのに、仲間をおしのけて、「俺がやったんだ」、「ごめん、ごめん」、「すまない」と、おもてに立って頭を下げ、仲間を疵った。
 このごろ、殺人、婦女暴行、放火、盗みなどで容疑者がつかまると、彼、彼女は、「自分ではない」と堂々と否認する例をテレビなどで多く見る。悪びれる様子もない。私などは、「なんという人だろう」と悲しくなる。
「人権尊重」、「個人の自由」は、大変けっこうな現代人の特質だろうが、その裏を横行するような日常茶飯の出来事には、まいってしまう。そして、遠くA君のことを想い出してしまう。

戻る