大乘寺ご開山のことども(6) 第54号
 直前にしるしました(第53号)とおり、ご開山は、懐奘禅師の命をうけて、中国へお出かけになり、あしかけ四年間にわたって、諸寺院を巡観し、その成果を『五山十刹図』(旧国宝。国指定重文)にまとめて、帰国されました。
 それにもとづいて、永平寺の伽藍、礼儀そのほかが一新されるのであります。
 前後しますが、ご開山は、中国へおわたりになるにあたって、死をも覚悟しておられたことが、史料によってわかります。
 いま、中国へ航空機で行けば、三時間たらずで到着します。サンダルに、下駄ばきで気軽にゆくことが出来ます。
 しかし、ご開山のころは、決してそうではありませんでした。想像を絶するような大冒険であったことでしょう。
 ご開山は、このときにあたって、如意輪菩薩と虚空蔵菩薩をみずから彫刻しました。

 そして、誓願をたてられました。
 「如意輪菩薩さま。
  虚空蔵菩薩さま。
 私は、仏法を日本にさかんにしたいという道元禅師の念願をはたすため懐奘禅師の指示をうけて、中国へわたります。
 わが永平寺のために、どうか、お力をおかし下さい。
 もし、海中で命をおとすようなことがあれば、私は、再び、この世に生れ出て、願いを達成したいとおもいます。
 ここに誓約をしるして、二菩薩の御前に奉ります。」
 このいのちがけの誓願のもと、ご開山は、所期の目的を果たして、帰国されました。
 仏教は、誓願の宗教です。
 誓願をもたない仏、菩薩はいません。誓願のない修行はありません。




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